多声音楽の起源をさぐる その6(古代ユダヤの音楽)

前回の記事で、西洋音楽のルーツであるキリスト教聖歌のルーツのひとつ、古代ギリシャ音楽について調べた。

 

今回はもう一つのルーツである古代ユダヤ、そこではどんな音楽があったたのかを探る。

 

 

前回までの記事はこちら↓

 

 

 

キリスト教聖歌のルーツをさぐれ!(古代ユダヤ編)

最後の晩餐

 

新約聖書には、最後の晩餐で賛美歌を歌ったことが言及されている。

 

記録にも、ごく初期のキリスト教で賛美歌が歌われていたことがみえるが、その言及は詩的もしくはあいまいなもので、この時代の音楽が実際にどのようなものだったかはほとんどわからない。

 

西洋音楽のルーツである現在のキリスト教会の聖歌は、もともと 古代ユダヤ音楽 と 古代ギリシャ音楽 の2つを母体として発展したとされているが、当然ながら キリスト教成立の背景には古代のユダヤ教がある。

 

そのため、ユダヤ教会堂歌の様式の大部分が初期キリスト教に採用され、キリスト教聖歌の成立に大きく関係しているといわれる。

 

また、ギリシャ正教会聖歌、アルメニア聖歌、グレゴリオ聖歌などの歌のうちの古いものは、起源としてユダヤ教会堂歌の型を改作したものと見られている。

 

イスラムが興るまでのユダヤ教会シナゴーグの音楽は、初期キリスト教音楽とほとんど変りがないという見解もある。

 

では、新約聖書よりももっと前の、古代ユダヤ教の音楽とはどのようなものだったのだろうか。

ポリフォニーはあったのだろうか?

 

 

古代ユダヤ教の音楽

紀元前10世紀~バビロン捕囚

バビロン捕囚

 

『旧約聖書』の記述によると、古代イスラエルのダビデ・ソロモン時代(前10世紀頃)では エルサレムなどの神殿において、礼拝や祈祷に伴う音楽と舞踊、戦いの勝利の音楽など、さまざまな音楽が演奏されていたという。

 

具体的には、音楽の始祖ユバルについての記事を筆頭に、預言の音楽、祈りの歌、仕事歌、儀式のための付随音楽、愛歌、哀歌、宴のようす、女性の歌と踊り、音楽治療(*後述)など、この時代を通じての音楽状況に関するさまざまの言及がみられる。

 

楽器では小形シンバル、枠太鼓、リラの類、リード笛、銀製トランペット、角笛(つのぶえ) などの名があげられる。

 

その頃の古代ユダヤ教では歌に楽器が付いていたとされる。
(つまり、東方教会聖歌のような無伴奏聖歌ではないという事)

 

しかし、その歌がポリフォニーだったかどうかは不明である。

 

 

ところで、余談だが個人的には上にあげた旧約聖書の記述にある「音楽治療」が興味深い。
 
こちらのブログ で旧約聖書から音楽に関する記述のみを抜き出して紹介してくれているので、その一部を引用させていただく。
 
(サムエル前書(サムエルの書上)
第16章23
神の霊がサウルを襲うとき、ダビド(ダビデ)は竪琴を取って弾きながら歌った。そうするとサウルは心が安らかになって落ち着き、悪霊も離れ去るのだった。
第18章10
その翌日から下った悪霊がサウルに取りつき、家の中で気が狂ったようになったので、ダビドはいつものように弾き歌いを始めた。
 
 
 
音楽療法というか、完全に音楽を使った除霊、悪霊調伏、祈祷である。
 
音楽は目に見えないものに作用するという考えは、古代では世界中に共通する概念だ。
 
 

第二神殿時代(紀元前5世紀頃)

バビロニアからエルサレムに帰還した後、神殿の他にシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)という場所を設け、そこでは声楽優位の礼拝が持たれるようになったという。 (参考:Zeamiブログ 「聖書とディアスポラ」
 
ダヴィデ王はハープを弾きながら詩を歌ったことが旧約聖書には記されているが、紀元70年のエルサレム神殿崩壊後、声楽は彼等の礼拝の中に保存され今日に及んでいるのに対し、器楽はユダヤ教の音楽からは忘れ去られていった。
 
そしてまた、以前の記事で書いたように 初期キリスト教でも楽器は異教的なものとして典礼から排除された。
 
キリスト教の成立後、教会において楽器の使用が認められるまで、紀元前以来じつに千年近い時間が必要となったのであった。
 
 
 
ユダヤ教の宗教歌ーシャバト(安息日)の歌
 
 

旧約聖書の音楽

ヘブライ語聖書の最も古い完全な写本である マソラ本文(マソラほんもん)

第二神殿時代に遡る古代のアクセントなどの「音の読み方」を、約1200年前から、その伝統を正確に保存していると言われている。
 
 

レニングラード写本

( ↑ マソラ本文のひとつ、レニングラード写本の表紙。幾何学模様が美しい。)
 
 
フランスの女流音楽学者 Suzanne Haik Vantour(シュザンヌ・アイク・ヴァントゥーラ)女史は、この写本をもとに数えきれないほどの実験と徹底的な考証を重ね、3000年前のオリジナルの聖書音楽を再現する試みに成功した。
 
その音源がこちら。
 
La musique de la Bible révélée(旧約聖書の音楽)
 

紀元前当時の旧約聖書の音楽を考証、できる限り忠実に再現することを試みた有名なフランスの女流音楽学者 シュザンヌ・アイク・ヴァントゥーラ女史による音源。

 

仏ハルモニア・ムンディ (Harmonia Mundi)から1976年に出た。(楽譜も出版されている)。

 

La Musique de la BIBLE revelee'

 

 

Suzanne Haik Vantoura - NPR Morning Edition 1986

 

コチラの動画はそれに伴うドキュメンタリー映像のようです。

考証の仕方などを詳しく解説。

 

上の1つ目の動画「La musique de la Bible révélée(旧約聖書の音楽)」のアップ主さんは、概要欄にてこのように言っています。 (*自動翻訳による)
 
 
ハイク・ヴァントゥーラの音楽的業績の驚くべき意義は、もしそれが本当なら、ハイク・ヴァントゥーラが、信じられないほど精神的価値のある壮大な音楽を我々に明らかにしただけでなく、そうすることによって、彼女が、世界の完全な芸術音楽の、これまでに知られている唯一の現存の例-2000年前の古代ギリシャの楽曲「セイキロスの墓碑銘」より多分1000年早く書かれ、古代から完全に原形を保って残っている唯一の音楽-も我々に明らかにしたということだ...。
 

 

 
なんとこの音楽は、以前の記事でご紹介した "現存する最も古い聖歌" とされている「セイキロスの墓碑銘」よりも古いという主張!
驚きである。
 
そしてまた、このシリーズの主題であるポリフォニーの起源についてだが、どうやら古代ユダヤの音楽ではポリフォニー合唱の形跡は見つかっていないようだ…。
 
 
 
 
以上、キリスト教聖歌のルーツである古代ユダヤおよび古代ギリシャ音楽を紀元前までさかのぼって見てみました。
 
やはり西洋音楽におけるポリフォニーは、本の言うとおり中世10世紀ごろからしか存在しなかったのであろうか?

次回はさらにもっと前、古代の遺跡を見てみたいと思います。

 

 

次回はこちら ↓

hissorisekai.hatenablog.com

 

 

参考にさせていただいたサイト

●コトバンク
●音楽史探訪

 
誠にありがとうございました!


その他

ユダヤ人を考えるのに非常に参考になるサイト
・ユダヤ人論考



多声音楽の起源をさぐる INDEX


 
 
 
 

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