多声音楽の起源をさぐる その5(3世紀~紀元前)

これまでの調べで、多声音楽の起源を調べるにあたり西洋音楽のルーツである聖歌をたどっていくと、東方(オリエント)に古い形が残されていることがわかった。

 

前回の記事では3世紀~5世紀ごろに成立したと考えられている東方教会の聖歌について調べた。

 

 

前回までの記事はこちら↓
 
 

世界最古の聖歌

さて、私の読んだ本によると「西洋音楽の最も古い形はグレゴリオ聖歌である」と書かれていたことは以前の記事にも書いた。

 

だが 調べてみると、やはり もっともっと古い聖歌があることがわかった。

 

オクシリンコス・パピルス

 

1922年にエジプト中部のオクシュリンコスにて、古代のごみ捨て場の跡から数千点に及ぶパピルス文書が発掘された。

 

整理が進められていくうちに、20世紀になって それまで全く知られていなかったイエスの言葉などが記されたパピルス断片が多数発見され、新約聖書学の点からも注目されるようになった。

 

オクシリンコス・パピルス と呼ばれるそのパピルスの断片には、聖歌や演劇の歌などが含まれており、その中の「パピルス・オクシュリンコス (P. Oxy. XV 1786)は、オクシュリンコスの聖歌と一般に呼ばれ、言葉と楽譜の両方を含むキリスト教東方諸教会)の写本として知られている 最古のもの である。

 

3世紀末のものと推定されている。

 

その再現を試みた音源がこちら ↓

世界最古のキリスト教聖歌
「三位一体の聖歌」(オクシュリュンコスの聖歌)

 

この楽譜はギリシア記譜法で記されており、古代ギリシャから保存されている唯一のキリスト教音楽と言われているが、この賛美歌とキリスト教の聖歌の伝統との関係は明らかでない。


単旋律(モノフォニー) で独唱用である。

 

古代ギリシアの文化がエジプトの都市にどのように受容されていたか、また初期キリスト教を研究するうえでも貴重な資料とされている。

 

Oxyrhynchus Papyri Project

 

オクシュリンコス・パピルスについて興味がある方はこちらもどうぞ。

発掘のドキュメンタリー映像。

 

この他にもすべて英語ではあるが、Youtubeで 「Oxyrhynchus Papyri」で検索すると、このパピルス発掘についてのドキュメント映像がいくつか見ることができる。


というわけで、西洋音楽のルーツであるキリスト教聖歌の歴史を調べるには、現在のところ3世紀までが限界のようである。

 

それでは、3世紀以前の西洋音楽とは、一体どのようなものだったのだろうか?

 

 

キリスト教聖歌のルーツをさぐれ!(古代ギリシャ編)

アテネ

2世紀~紀元前

このあたりから、中世の西洋音楽 のルーツのひとつである古代ギリシャの音楽世界へ入って行くことになる。

 

(注:紀元前2世紀、ローマがギリシャを征服する。しかし古代ローマでは音楽や芸術はそれほど発展せず、基本的には古代ギリシャのものを踏襲した形になっている。そのためここでは3世紀以前は古代ギリシャ音楽ということで統一する)

 

西洋音楽は皆さんご存知のように、古代ギリシャに端を発している。

その痕跡たるや甚大で、音楽つまりミュージックの語源は、ギリシャ語のムーシケーから来ているというほどである。

 

古代ギリシャでは、音楽は数学や天文学と同様、人間にとって非常に重要な「(数学的な)学問」とされていたというのは有名な話だが、現在私達が楽しんでいるような舞台芸術としての側面もあったようだ。

 

古代ギリシャ

 

古代ギリシアにおいては、歌は舞踊を伴う舞台芸術であった。

詩の朗読や劇の上演に際して歌われるものであり、歌のみを単独で歌唱することはなかった ようだ。

 

合唱を意味するコーラス「chorus」という言葉は元々は、ギリシャ語の「χορός」(コロス)という言葉に由来する。

ギリシャ語の「χορός」(コロス)という言葉は、もともとは「踊り」を意味する。

 

そしてそこから、古代ギリシャの演劇で登場する、舞台上で歌と踊りを披露していた12〜15人編成のグループを「χορός」(コロス)と呼ぶようになった。

 

祭祀などの場で広く行われていたコロスの歌や舞踊のなかから喜劇や悲劇が生まれたといわれ、歌は、古典劇においては劇中に登場して劇の進行に大きな役割を果たした。

 

また、コロスのせりふは一般に旋律を伴っていたと考えられるが、その実態はほとんど明らかでない。

 

古代ギリシャでは合唱ではあっても 単旋律(モノフォニー)のユニゾン で歌われていたと言われている。

 

 

では、古代ギリシャの音楽とはどのようなものだったのか?

ちょっと聴いてみましょう。

 


古代ギリシャの音楽 /グレゴリオ・パニアグワ

 

1979年に録音された、古代ギリシャ時代のパピルスや大理石に記された稀少な楽譜から再現を試み、若干足りないところは空想で埋めたという作品。

使われている楽器は、当時の壁画などの図像に基づいて、パニアグワが再現したもの。

 

ミューズへの讃歌/古代ギリシャの音楽
 
 

こちらも古代ギリシャ音楽

詳細不明の音源ですが、コンラッド・シュタイマンの (13:42 - Ekleipsis )が個人的におススメ。

 

Música Griega Antigua (Music Of The Ancient World)

 

古代ギリシャの音楽はさすがに古すぎてほとんど痕跡が残っておらず、具体的にどういったものだったかを知ることは難しい。

私たちが触れることのできる、ギリシャ音楽の最も古いものがこちらである。

 

完全な形で残っている世界最古の楽曲

 

「セイキロスの墓碑銘」

 

セイキロスの墓碑銘は完全な形で残っている 古代ギリシア音楽 世界最古の楽曲である。

 

この旋律は、現在のトルコ・エフェソス近郊のアイディニオンで発見された墓碑銘の歌詞の上に刻まれていたものである。

年代は 紀元前2世紀~紀元後1紀頃 と推測される。

 

古代ギリシアの音楽としては、これより古いものも存在する(『デルフィの讃歌』など)。

だが、短いながらも完全な形で残っている楽曲はこれが最古である。 

 

合唱用の作品としてではなく、独唱用だったといわれている。

つまり、古代ギリシャの音楽は、やはり たとえ合唱であってもモノフォニー(単旋律)のみで、ポリフォニー合唱の記録は見つかっていないようだ…。

 

以上、キリスト教聖歌のルーツである古代ギリシャ音楽を紀元前までさかのぼって見た。

 

次回、古代ギリシャとともにキリスト教聖歌のもうひとつのルーツである古代ユダヤの音楽についても調べてみます。

最後までお読みくださりありがとうございました。

 


次回はこちら ↓

hissorisekai.hatenablog.com

 

 

 

音楽史探訪 - 古代
東方正教会の聖歌と奉神札 - 正教会聖歌の特徴
 
誠にありがとうございました!
 
 

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